公開日: 2026.09.24 / 最終更新日: 2026.09.24

メーカー直販の始め方|卸と衝突しない価格と最初の一品の決め方

自社製品を持つ中小メーカーが直販を始めるとき、既存の卸・代理店と衝突しない価格と品揃えの決め方、最初に出す1品の選び方、受注と出荷を社内の誰が担うか、小ロット出荷で変わることを、開店前に決める順で整理します。

左手前の工場の建屋から2本の道が伸び、1本は中継の建物を経て店の前へ続き、もう1本の細い道は中継を経ずに右奥の家の玄関へまっすぐ届いていて、その細い道を小さな荷物を抱えた人が玄関へ向かって歩いている情景イラスト

自社で製品を作っていて、販売は長く卸や代理店に任せてきた。それでも展示会や問い合わせフォームには「どこで買えますか」という連絡が届くようになり、社内でも自分たちで直接売ってみようという話が出ている——中小のメーカーが直販(D2C。卸や小売を介さず、作り手が購入者へ直接販売すること)を考え始めるきっかけは、たいていこの形です。ところが実際に手を動かすと、最初に止まるのはカートサービスの選定ではありません。「いくらで売るのか」「どの商品を出すのか」を決めようとした瞬間に、既存の取引先の顔が浮かぶからです。この記事では、その順番——既存の卸・代理店と衝突しない線の引き方から、受注と出荷を社内の誰が担うか、小ロット出荷が始まると何が変わるかまでを、開店前に決める順に整理します。

直販で最初に決まるのは、既存の卸・代理店との線の引き方

自社ECを開くと、これまで取引先の売り場で起きていた販売が、自社の売り場でも起きるようになります。この、自社の販路同士がぶつかる状態をチャネルコンフリクト(販路の衝突)と呼びます。衝突は主に3つの形で表れます。1つ目は価格——自社ECのほうが安ければ、取引先の店頭は売りにくくなります。2つ目は品揃え——取引先の主力商品をそのまま全点並べると、正面でぶつかります。3つ目は顧客——取引先が育ててきた顧客が、そのまま自社ECへ移ることがあります。

この3つは、開店したあとに調整しようとすると、すでに誰かが不利益を受けた状態からの話し合いになります。だから開店前に社内で決めておきます。そしてもう一つ、決める前に知っておきたい前提があります。自社ECでいくらで売るかは自社が決められますが、取引先が店頭でいくらで売るかを指定して守らせることはできません。公正取引委員会は、指定した価格で売らない小売業者に対して卸価格を上げたり出荷を止めたりして価格を守らせることを「再販売価格の拘束」として、独占禁止法上問題となる行為に挙げています(公正取引委員会「企業の違反行為」のページで示されている考え方です)。つまり衝突の調整は、取引先の価格を動かすのではなく、自社ECの価格と品揃えの置き方でしか行えません。

開店前に決めておく論点を、衝突しやすい決め方と並べて整理すると次のようになります。

決める項目衝突しやすい決め方衝突しにくい決め方取引先へ伝える内容
直販の価格卸価格に少し足しただけの価格を付け、店頭より明確に安く出す希望小売価格と同じ帯に置き、差は送料条件や購入単位で付ける直販の価格帯の考え方(店頭価格の指定はしない)
出す商品取引先の主力商品をそのまま全点並べる既存販路で扱いの薄い商品や、直販限定の構成から始める直販で扱う商品の範囲
取扱店の案内自社ECへの導線だけを置く取扱店の一覧や問い合わせ先をサイトに残す取扱店ページへ掲載してよいか
大口・業務用の注文直販のカートで数量の上限を設けずに受ける一定数量を超える注文は取引先か別の注文窓口へ案内する大口注文を回す先
値引き・販促直販だけで随時セールを行う実施の時期と幅を社内のルールにし、事前に知らせる年間のおおまかな実施時期
直販を開く前に決めておく5つの論点(既存の卸・代理店がある場合)

価格の決め方|自社ECの価格は「卸価格の延長」で決めない

直販の価格でつまずきやすいのは、卸価格を基準にしてしまうことです。卸出しは、まとまった数量を1回で出荷し、請求も月まとめで済みます。直販は逆で、1個ずつ梱包して1件ずつ発送し、決済も問い合わせも1件ごとに発生します。卸のときには乗っていなかった費用が、直販では1件ごとに乗ります。おおよそ次のような項目です。

  • 決済手数料とカートサービスの利用料:注文金額に対する割合と、月々の固定分の両方がかかります
  • 送料と梱包資材:1個口で送れる箱、緩衝材、封入物。卸出しのパレットや外装とは別に用意が必要です
  • 商品写真と説明文の制作:取引先のカタログに任せていた部分を、自社で作ることになります
  • 問い合わせと返品の対応:購入者一人ひとりからの連絡に、担当者の時間が使われます
  • 少量在庫の保管とピッキング:卸向けのロット単位ではなく、1個単位で取り出せる置き方が要ります

これらを乗せたうえで、価格帯の置き方には現実的に3つの選択肢があります。1つ目は、希望小売価格と同じ帯に置く。取引先の店頭と正面から競合しないため、既存の取引がある場合にもっとも取りやすい形です。2つ目は、価格は同じ帯に置いたまま、送料の条件や購入単位(まとめ買い、定期の購入)で差を付ける。3つ目は、直販限定の構成(セット、容量違い、色やサイズの違い)にして、そもそも同じ商品として比べられない状態にする。中小メーカーで既存の取引を大切にしたい場合は、1つ目か3つ目から入るのが扱いやすい選択です。

価格を表示するときの注意点も一つあります。メーカー希望小売価格を横に並べて「割引後の価格」のように見せる表示は、景品表示法の二重価格表示の考え方に関わります。消費者庁は、比較対照価格として使える希望小売価格を、販売時点で有効に設定され公表されているものに限ると整理しています(消費者庁「二重価格表示」のページで示されている考え方です)。設定していない価格を希望小売価格として並べる、実際より高い価格を並べる、といった表示は避けてください。

最初に直販へ出す1品の選び方|主力から外して選ぶ

全商品をそろえてから開店しようとすると、写真も説明文も在庫の置き方も同時に必要になり、開店そのものが遠のきます。最初は1〜3品でかまいません。選ぶときは、既存の卸・代理店での取扱いの強さと、直販での扱いやすさの2つで見分けます。

最初に直販へ出す商品の選び方を4つに分けた分類図。横軸に既存の卸・代理店での取扱いの強さ、縦軸に直販での扱いやすさを置き、取扱いが薄く扱いやすい商品はまず出す、主力で扱いやすい商品は価格と役割を決めてから、扱いにくい商品は順番を後にする、主力かつ扱いにくい商品は当面出さない、と振り分けている

「直販での扱いやすさ」は、具体的には次のような条件で判断します。1個口の宅配便で送れる大きさと重さか。写真と文章だけで価値が伝わるか(触って確かめないと分からない商材は、説明の作り込みに時間がかかります)。卸向けの在庫と分けて確保できるか。繰り返し買われる性質があるか。これらが満たせる商品ほど、最初の1品に向きます。

取引先の主力商品を出したくない一方で、出せる商品が見当たらない——という場合に使えるのが、直販限定の構成です。数種類を組み合わせたセット、家庭向けの小容量、直販だけの色やサイズ、製造工程で出る規格外品、名入れや刻印といった個別対応。いずれも取引先の棚に並んでいる商品とは別物になるため、価格を直接比べられにくくなります。なお、最初から「出さない商品」を決めておくことも同じくらい重要です。取引先の売り場と正面でぶつかり、かつ小ロットでの出荷も難しい商品は、当面は直販に載せない、と決めてしまってかまいません。

受注と出荷は社内の誰が担うか|卸の受注業務とは別の仕事になる

直販が動き出すと、既存の受注担当者の仕事が自然に増える、という形にはなりません。卸向けの受注は、取引先からのFAX・メール・電話を受け、締め日にまとめて請求する流れです。直販は、都度の決済が完了した注文を、当日または翌日に発送する流れです。締め日で区切る仕事と、毎日その日のうちに終わらせる仕事が、同じ人の机の上に同居することになります。

開店前に、次の4つの役割について「誰が」「1日のいつ」やるかまで決めておくと、始めてからの混乱が減ります。

  • 注文の確認と出荷指示:毎日決まった時刻に注文を締め、出荷リストを作る。時刻を決めておくと、購入者へ案内する発送日も固定できます
  • 梱包と発送:1個口の梱包、送り状の発行、集荷への引き渡し。工場や倉庫の既存の出荷作業と場所を分けるか、時間帯を分けます
  • 問い合わせと返品の対応:購入者からの連絡に答える窓口を1つに決める。担当者の不在時に誰が見るかも決めておきます
  • 商品ページの更新:在庫、価格、説明文、写真の差し替え。更新する人が1人だと止まるため、副担当を置きます

人数が限られる場合は、兼務でかまいません。大切なのは、時間帯で切り分けることです。たとえば午前は卸向けの受注、午後の決まった時刻に直販の締めと出荷、といった形です。既存の取引を止めずに新しい販路を立ち上げる進め方は、卸売のEC移行は並走で進める|既存取引を壊さない3群の分け方でも取引先の分け方から整理しています。

小ロット出荷が始まると何が変わるか|1個口を前提に作り直す

直販で最も現場が変わるのは、出荷の単位です。ケースやパレット単位で出していた製品を、1個ずつ個人の住所へ送ることになります。ここで後から慌てやすい点を、先に挙げておきます。

  • 梱包資材:1個口で送れる箱と緩衝材を、サイズ別に用意します。外装に製品名が大きく入っている場合、個人宅への配送では中身が分かる状態を避けたいという声もあるため、外装の扱いも決めておきます
  • 送料の設定:実費、全国一律、一定額以上は無料、といった置き方があります。北海道・沖縄・離島の扱いを最初に決めておかないと、赤字の注文が混ざります
  • 出荷の締め時間と発送日:「何時までの注文は当日発送」をサイトに書けるかどうかで、購入前の不安がかなり変わります
  • 在庫の分け方:卸向けの引き当てと直販の引き当てを同じ在庫で回すと、卸の大口注文でECの在庫が消えます。直販用に一定数を分けて置くか、在庫数の連携の仕方を決めます
  • 同梱物と書類:納品書を入れるか、次回の案内を入れるか。個人宛の場合、請求書は不要でも、内容が分かる書類は入れておくと問い合わせが減ります
  • 問い合わせの質が変わる:取引先からの連絡は品番と数量の話が中心ですが、購入者からの連絡は使い方、サイズ、届く日、返品の可否など幅が広がります

これらは、月に数件の注文のうちは気合いで回ります。問題は、うまくいって件数が増えたときに一気に破綻することです。開店前に「1日に何件までなら今の体制で回るか」を一度数えておくと、その件数に近づいたときに、資材の発注や作業の分担を先に動かせます。

開店前に自社の商材で確認する、法令とサイトの表記

直販は通信販売にあたるため、サイトに表示しなければならない事項があります。消費者庁の特定商取引法ガイドでは、通信販売の広告について、販売価格(送料を含む負担額)、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、申込期間の定めがあるときはその内容、契約の撤回や解除に関する事項(返品特約の有無と条件)、事業者の氏名・住所・電話番号、法人がインターネットで広告する場合の代表者または業務責任者の氏名などを表示事項として挙げています(消費者庁の特定商取引法ガイド「通信販売広告について」より)。多くのカートサービスには「特定商取引法に基づく表記」のひな形がありますが、返品の条件と送料は自社で決めて書き込む必要があります。

商材によっては、これに加えて確認すべき法令があります。食品を作っているメーカーであれば、食品表示法にもとづく表示と、インターネット販売での情報提供の考え方(消費者庁が食品表示のページで関連資料を公開しています)、および食品衛生法にもとづく営業許可・営業届出の区分が関わります。営業許可・届出の制度は2021年6月から新しい区分で運用され、厚生労働省の食品衛生申請等システムからオンラインでも申請・届出ができますが、自社の製造・販売の形がどの区分にあたるかは所管の保健所へ事前に相談するのが確実です。化粧品・医薬部外品・健康食品を扱う場合は、医薬品医療機器等法(薬機法)の広告に関する規制が、商品ページの効能効果の書き方に直接関わります。

ここで挙げたものが自社にそのまま当てはまるとは限りません。必要な届出も表示も、商材と販売の形によって変わります。開店前に、自社の商材に照らして、消費者庁・厚生労働省・所管の保健所など公的機関の一次情報と窓口で確認してください。卸として出荷していたときには取引先が担っていた表示の責任が、直販では自社に移る、という点だけは共通しています。

着手の順番|決める・小さく開ける・週に1回見る

ここまでを、開店までの順番に並べ直します。第1段階は、社内で決めること——直販の価格帯、出す商品と出さない商品、取扱店の案内をどう残すか、大口注文の回し先、値引きの方針。第2段階は、取引先へ伝えること。決めた内容を、案内を出す前に主要な取引先へ共有します。伝える相手と順番も社内で決めておきます。第3段階が、開店の準備——商品ページ、特定商取引法に基づく表記、送料と返品の条件、梱包資材、出荷の締め時間。第4段階が、開店と最初の案内です。

開店後は、件数がごく少ない時期が続きます。この時期に見るのは率ではなく件数です。注文件数、問い合わせ件数、出荷にかかった時間、返品の件数。週に1回・同じ曜日に見て、体制が回っているかどうかだけを判断します。商品ページの作り込みは商品ページの構成はこの順番|自社ECで売れる型と直す優先順位、広告費をかけずに最初の訪問者を集める順番は自社ECの集客を無料で始める方法|立ち上げ期の施策と着手する順番で整理しています。そもそも自社ECを持つ判断から迷っている場合はShopifyで自社ECを作るべき理由と費用|脱モールの判断基準が参考になります。

まとめ——決めるのは、価格と品揃えと担い手

メーカーの直販は、カートサービスを契約した日ではなく、既存の卸・代理店との線を社内で決めた日に始まります。価格は卸価格の延長ではなく、1件ごとに乗る費用を織り込んだうえで、希望小売価格と同じ帯か、直販限定の構成に置く。最初に出すのは主力商品ではなく、既存販路で扱いの薄い商品や、1個口で送れて説明で価値が伝わる商品。受注・出荷・問い合わせ・ページ更新の4つは、兼務でよいので「誰が、いつ」まで決めておく。小ロット出荷は、梱包・送料・在庫の分け方を1個口前提で作り直す。そして表示と届出は、自社の商材に照らして公的機関の一次情報で確認する。この順番であれば、既存の取引を壊さずに、直販の1件目を出せます。

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よくある質問

Q. 既存の卸・代理店に、直販を始めることを事前に伝えるべきですか?
A. 伝えることをお勧めします。開店してから知られると、取引先は「相談もなく売り先を取られた」と受け取りやすく、そこから条件の話し合いを始めることになります。伝える前に、直販の価格帯の考え方、直販で扱う商品の範囲、大口注文を取引先へ回すかどうか、取扱店の案内をサイトに残すかを社内で決めておき、決めた内容をセットで共有すると話が進みやすくなります。具体的な扱いは契約や取引条件によって変わるため、自社の取り決めに照らして確認してください。
Q. 自社ECの価格は、取引先の店頭価格より安くしてもよいですか?
A. 価格をいくらにするかは自社で決められますが、既存の取引を続けたいのであれば、店頭より明確に安く出すのは避けるのが無難です。直販では決済手数料、送料、梱包資材、問い合わせや返品の対応といった費用が1件ごとに乗るため、卸価格を基準に少し足しただけの価格では利益も残りにくくなります。希望小売価格と同じ帯に置いたうえで、送料の条件や購入単位、直販限定の構成で違いを付ける形が扱いやすい選択です。
Q. 取引先に「この価格で売ってほしい」と指定してもよいですか?
A. 指定した価格を守らせる行為は、独占禁止法上の問題になり得ます。公正取引委員会は、指定した価格で販売しない小売業者に対して卸価格を高くしたり出荷を停止したりして価格を守らせることを「再販売価格の拘束」として挙げています。希望小売価格を目安として伝えること自体と、守らせるために取引条件を動かすことは別の話です。個別の運用については、公正取引委員会の公表資料や専門家への相談で確認してください。
Q. 最初に直販へ出す商品は、主力商品にすべきですか?
A. 既存の卸・代理店との取引がある場合は、主力商品から始めないほうが進めやすくなります。取引先の棚と正面からぶつかるためです。既存販路で扱いの薄い商品、直販限定のセットや小容量、規格外品、名入れなどの個別対応から始めると、価格を直接比べられにくくなります。あわせて、1個口の宅配便で送れるか、写真と文章だけで価値が伝わるか、卸向けの在庫と分けて確保できるかも判断材料になります。
Q. 受注と出荷は、専任の担当者を置かないと回りませんか?
A. 件数が少ないうちは兼務でかまいません。ただし、卸向けの受注(締め日でまとめる仕事)と直販(その日のうちに出す仕事)は性質が違うため、時間帯で切り分けてください。注文の確認と出荷指示、梱包と発送、問い合わせと返品の対応、商品ページの更新の4つについて、誰が1日のいつ行うかを開店前に決め、それぞれに副担当を置いておくと、担当者の不在時にも止まりません。
Q. 開店前にそろえておくべき、法令上の表記は何ですか?
A. 直販は通信販売にあたるため、特定商取引法にもとづく表示が必要です。消費者庁の特定商取引法ガイドでは、販売価格と送料を含む負担額、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品特約の有無と条件、事業者の氏名・住所・電話番号などが表示事項として挙げられています。食品であれば食品表示法と食品衛生法の営業許可・届出、化粧品や医薬部外品であれば薬機法の広告規制も関わります。必要な届出は商材と販売の形で変わるため、自社の商材に照らして消費者庁・所管の保健所など公的機関の一次情報で確認してください。

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